わたし、入院しています

急に入院した女の話

わたし、入院していますep.8

そう、私は食いしん坊である。

本当に幸せそうに食べる、量も割と食べる、なにより食べるのが本当に早い。
みたいなお声を多方面より頂戴しております…

温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに。ご飯が来たらすぐ食べよ〜お願いお願い、作る人も出来立てを食べて欲しいわけですから〜(うるさい)

仕事中一緒にランチ行ったりすると、大体驚かれる。話しながら食べてるのになんでそんなに早いの?と。

「今まで私(僕)より早く食べ終わった人、チョロが初めて。噛んでる?」

多分噛んでない(噛んでるけど少ない?もしくは速い?)、あとひと口がめちゃくちゃでかい。

食べること、楽しくて大好き。

でもいつからか食事はタスクになっていたような気がする。
父に「お前の食べ方、食べることでストレス発散してるみたいに見える、もっと味わいなさいよ」と言われたりもして…

えー?そうかなあ、そんなことない、味わってるよ今日だってこの煮物美味しいし、お肉も美味しいよ、もぐもぐ

と、思ってた。

入院してしばらくは絶食。手術の可能性もあるので水もNG。そもそも痛みで食欲はなかった。

そのうち体調が少しずつ良くなるのに従い、気付いたことがある。
ご飯の時間って、なんというかいいムードで、みんな声には出さないしカーテンで見えないけど「わ〜🌸」みたいな感じが部屋に満ちる気がする。
ご飯を運んできてくれた時に、誤配防止のために名前と生年月日を言うんだけど、向かいのベッドの方がいつもいつも朗らかに答えてて、それを聞いてるとこちらも嬉しくなったりして。

暇なので、今日は煮物かなあ、にんじん、椎茸?ごぼう…治部煮か?などと想像して、後で談話室に貼ってある献立表を確認しに行くという地味〜な1人遊びを開発したりした。

2/3
「チョロ寺さん、血液検査の数字がだいぶ良くなったので、流動食を始めていきたいと思いますがどうですか?」

9時ごろに先生が回診にきた。
そしてその日のお昼から、流動食が始まることになった。展開が早い。

検温に来てくれる看護師さんや点滴の交換に来てくれる看護師さんが
「チョロ寺さん、流動食になるって聞きました☺️?」
「チョロ寺さん、やりましたね☺️!」
などと言ってくれるたびに、うんうん、そうなんですと頷いてたら、みんなが一様に
「あっ、あのでも流動食って言っても、本当にほんとに汁って感じで…あの本当に汁…☺️💦💦💦」
と同じように心配してくれるのがおかしかった。

多分、私が本当に嬉しそうに見えたんだろう。「そうなんですううううう😊x5000」って言ってたもん。あんまり喜んでるからがっかりしないようにしてくれたんだろうな。優し。

お昼の前に、鼻から喉を通って胃に入ってた管を抜いた。これ実は陰圧をかけて胃に溜まる胃酸や胆汁?を吸い出していたもので、胃カメラのあとから今までずっと入っていた。入れる時は訳がわからないうちに管を突っ込まれたので気付いたら入ってたわけだが、これ抜くの結構勇気がいるじゃないの、ドキドキするわよ…と思ってたら

「チョロ寺さんご飯の前にこれ抜きますね」
ささっ
「は」
するするするするするするする
「お?」
するするするするするするする
「い?」
するする
「いや長い」
「そうですね〜長いですね〜…」

気持ち作る前に抜かれた。先生いつも急…

そしてはじめての流動食。

「チョロ寺さんお昼ご飯です〜、お名前と生年月日お願いします」
「チョロ寺おチョロです!83年8月1日生まれです!」
前のめりな俺

メニューは
・重湯
・お味噌汁(赤だし)
・オニオンスープ
・ホット麦茶
・オレンジゼリー

えっめっちゃ豪華じゃん🤯🤯🤯

緊張しながら食べ始める。するりと細いお匙がついてきて、熱々の重湯をすくって口の中に入れた。
まず重湯にあたる舌先から…お米の味がする……!
それが口の中にじんわり広がり、ごくっと飲み込むと食道から胃にかけて熱が伝わり、そこからじわわわわわ〜…と体に広がっていく…!なにこれすごい…!

いつものペースで食べるとおそらく胃腸に負担がかかってしまうので、ゆっくり味わいながら食べることに全集中、不思議と気持ちも落ち着いてくる。
重湯にお椀の汁物がふたつ?と最初思ったけれど
どうしてどうして、味が2種類あることで全く飽きない!

赤だし、出汁の味にほっとする…
オニオンスープ、玉ねぎの甘みで自然ににやけちゃう…!

毎食こんな感じで感動し、それが3食続くのでなんだか日々に彩りができた。

ああ、食べるっていう行為は生きるための行為なんだなぁ、ということを実感した。

それから、これってほとんど瞑想に近いというか…なんだろう?食べてるのは「今」この瞬間の私なので、いわゆる過去にも未来にも思考が飛ばなくて凄くいい。

先のこと考えすぎて不安になったり、過去の後悔や罪悪感に囚われたりしたら、しっかり目の前にある「食事」だけをするといいんじゃないかと思った。

病院にいる間、ゆっくり味わう練習しようっと。新しい習慣を作るのだ。

つづく